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ヘヤー解禁
イランに行ったことがある。イラン航空の研修ツアーというか体験旅行というか、まあ業界向けのご優待である。追加代金を払えば友人参加もOKということで、お客様のような友達のような、ものずきな5名も参加させていただくことになった。
 例の9.11の数ヶ月前だったのだが、このツアーに参加したおかげで、イスラム世界に対するものの見方みたいなものが、少し世間の人とは違ってきた。イランに対する感じは、日本にいるイラン人の印象が悪いせいか、どちらかといえば「危ない国」といった感じを抱いている人が多いのではないだろうか。どこかの国のカウボーイ野郎が「悪の枢軸」とか言ったおかげもあるだろう。
 しかし百聞は一見にしかず。首都テヘランに着いてみたら、片側5車線の高速道路、きれいな高層住宅群、芝生の公園に噴水、その公園でピクニックをする家族連れ、フレンドリーな人たち、清潔でおいしいレストラン、とにかくダーティーなイメージからは程遠い、近代的で開放的なところなのだ。
 観光地だってたくさんある。ペルセポリスの遺跡はあまりにも有名だが、今回もっとも気に入ったのは古都イスファハンのイマーム広場だ。
 強いて旅行前から想像していた通りだったことといえば、ホメイニ師とハメネイ師、そしてハタミ大統領の肖像があちらこちらにあることと、女性が顔以外の全身を隠していることだったろうか。
 国の指導者の肖像を飾ることは、独裁国家や社会主義国で見られることだが、よく聞いてみたら、ハタミ大統領は国民の直接選挙で選ばれており、それもイスラム教の最高指導者(ということは国の最高指導者)であるハメネイ師とは一線を画している、というかどちらかといえば抵抗勢力的な大統領らしい。そういった人を選ぶことのできるイランの政治システムは、ある面では日本よりも民主的ではないか。
 それから女性の服装。ミニスカートやへそだしスタイルが最も節度あると勘違いしているアメリカ人からすれば異様な光景なのかもしれない。アフガニスタンのブルカが彼らの槍玉にあがっていたのは記憶に新しい。
 しかしイランの服装はアフガニスタンのそれほどは厳しいものではない。ベールで全身を包んでいる人もいるが、多くは頭だけかぶるようになっているマグナエというものを利用している。スカーフを巻いただけというのでも大丈夫らしい。色は黒が多いが、特に決まりはないらしく、結構カラフルなものもみかける。前髪を出すのがおしゃれで、それが茶髪だったりもする。黒のコートの裏地が赤だったり、化粧が艶やかだったり、イランの女性はそれなりにファションを楽しんでいる。
 この服装規定は外国からの旅行者にも要求される。われらに同行のおばさま方はもとより、研修ツアーに参加の他の旅行会社や航空会社のお姉さま方も、全員髪を隠している。わが同行者のMさんは、よくバスの中で首をたれてお休みになられるのだが、その度にスカーフがずれ落ちてガイドから注意を受ける。旅行者の身だしなみはガイドの責任らしい。
 参加者の中で一番若い女性は某韓国系航空会社の地上スタッフの方だった。多分20代半ばくらいだったと思うが、詳しくは知らない。その彼女はスカーフからちょこっとかわいらしい前髪を覗かせているのだが、もちろんそれ以上は見ることができない。ホテルの自分の部屋に帰らない限りスカーフをとることは許されないのだ。
 それとなく観察していると(べつに興味があったわけではないが)、結構キュートな顔つきをしている。ただいまひとつ自信がないのは、ヒトの美醜というのは、顔面の造作だけではなく、耳やヘアースタイルや、そういった総合評価によると思うのだ。
 観察の結果、どうも髪の毛を見たくなってきた。しかし歩いている最中にスカーフを奪うわけにもいかない。たまたまホテルで隣に部屋になったことがあったが、まさか壁に穴をあけるわけにもいかず、そっと耳を澄ましていると(べつに興味があったわけではないが)、大きなくしゃみが3回。キュートな顔には似合わないくしゃみだ。
 結局8日間の旅行が終了し、成田空港の税関でヘアー解禁となった。やはりかなりかわいい。それからは髪の毛を隠すこともなかなか悪くないなと思うようになった。

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