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金髪の靴磨き
 マイレージプログラムの威力は恐ろしい。中途半端なたまり方ならどこの航
空会社でも良いのだが、ある程度たまってくると、値段が高かろうが、時間帯
が悪かろうが、不便なルーティングだろうが、はたまたスッチーがブスだろう
がかまわなくなってくる。
 私は一般の旅行者はもちろんのこと、旅行業界の人間にさえあまり知られて
いなかった1989年から、ユナイテッド航空のメンバーだ。
 毎年、ユナイテッド航空を五万マイル以上は確実に利用するので、常にゴー
ルドカードが送られてくる。ゴールドカードのメンバーになるとマイルが倍に
なったり、ラウンジが使えたり、時々はアップグレードになったり、おばさん
スッチーがいいこいいこしてくれたり、とにかくまた利用しなきゃ、みたいな
気分になってくる。
 最近では航空会社間の提携が進んで、他の航空会社に乗ったときもマイルが
たまったりするので、4〜5社の会員になっていれば、日本に就航しているメ
ジャーな航空会社はほとんど網羅できる仕組みになっている。マイルがためや
すくなったということだ。
 ある団体で、ミズーリー州のスプリングフィールドに行くことになった。ま
ずサンフランシスコに飛び、そこからコロラド州のデンバーで乗り換えてスプ
リングフィールドに入った。
 多少なりとも航空業界に詳しい人なら、これがユナイテッド航空だというこ
とに気付くだろう。航空会社にはハブにしている空港がある。そこに行けば多
くの都市への便が出ており、乗り継ぎに便利なのだ。デンバーはユナイテッド
航空のハブのひとつなのだ。
 成田からスプリングフィールドに行くのには、アメリカン航空のダラス乗換
えが、最も乗り換えの少ないルートだったのだが、お客様がユナイテッド航空
のメンバーだった関係で、そのルートは企画の段階で却下されていた。
 前置きが長くなったが、そんなわけで特にデンバーに用事があるわけではな
いのだが、この空港はよく利用する。他のアメリカの空港と同様にバカでかい。
同じ航空会社同士でもかなりの距離を歩かされる。
したがって到着の飛行機がちょっとでも遅れたりしたら乗り継げないのであ
る。日本と違い、アメリカでは飛行機はバス並の扱いを受けているので、乗り
継げなかったくらいで丁重に謝ってなどくれない。カスタマーセンターの長い
列に並び、変更をお願いしなければならない。少人数だったらまあ何とかなる
ことでも、20人もお客様を連れているとちょっと気が重い。結果として、乗
り継ぎ時間は十分に取るようになる。
そのときも、確か2時間半くらいの待ち時間があったように記憶している。
1時間くらいならコーヒーでも飲みながらだべっていれば良いが、それ以上は
退屈だ。ぷらぷらターミナル内を歩くのだが、デンバーの空港はでかい割には
ショップ関係が少ない。
そんななかにふと目に留った一角があった。靴磨きのコーナーである。
ターミナル中央付近のエスカレーターの陰に6脚ほどの大きな椅子が置いて
ある。日本の靴磨きと違い、客は高い位置にある立派な椅子に腰掛け、磨く人
は立った状態で仕事が出来るようになっているのだ。これだけではどこにでも
ある風景なのだが、この靴磨きコーナーはちょっと、というかかなり違った。
そこで靴を磨いている従業員全員が金髪の女性だったのだ。
時間帯のせいか、ターミナル内は人気もまばらなのに、靴磨きの椅子はふさ
がっている。全員が後ろも振り向かず一生懸命靴を磨いている。近くに新聞を
見ながらウェィティングしているオヤジもいる。
私は断じて金髪は好みではないのだが、ここは話の種に磨いてもらわねばな
るまい。しかし待っているのもしゃくだ。というよりそんな姿を、知っている
人にみられたくない。
空くまでまとうとしばらく散歩して戻ってみる。まだいっぱいなのだ。デン
バーにはスケベオヤジが多いのだろうか。
それにしても靴磨きの連中の服装がまたいい。黒のパンツに白いワイシャツ、
それに蝶ネクタイ。その上からやはり黒いエプロン。まるでカフェバーのウェ
ィトレスではないか。後ろから見ていると、ブラだって透けてるぞ。何度も言
うようだが、私は金髪は好きではない。しかし透けブラはずるいではないか。
仕方ないもう一度散歩をしてこよう。
戻ってみると三度目の正直だ。ひとつだけ空いている。それも一番小柄な女
性の前が空いている。デンバーはいいところだ。
短い足を精一杯開いて椅子に登る。
そこでみた光景は、ああ悪夢だ。金髪は全員、どう若く見積もっても50を
超えたババアばっかりだったのだ。だまされた。
彼女らが後ろを振り向かない理由がわかった。

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